新作パフォーマンス公演 『カカメ』
身体、映像、空間を自在に結びつける独自の視点でパフォーミング・アーツへのアプローチを行ってきたdots。
最新作『カカメ』は、「鏡」をモチーフに、そこに照らし出される人間の様々な姿を劇場空間に映し出します。
合わせ鏡のように、自己と他者の関係性の中で複雑に揺れ動く私たちの存在。
その機微をすくい取りながら、舞台は現実とイメージの世界が交錯していきます。
そこに私たちの現在はどのように映るのか −。
前作の屋外公演『KISS』(2009/京都)とは対照的に本格的な劇場空間に正面から挑む本作。
これまでの作品で多様な展開をしてきたdotsならではの空間構成とイマジネーションが新たな局面を迎えます。
遠くを眺めている横顔がそこにあって、その横顔をじっと見ている。
見ている遠さは決してわからないけれど、顔を見ているだけでその視線の先の遠さをなんとなく感知する。
僕は人の顔を見つづける癖があって、相手に嫌がられても、気づくとまた見てしまっていたりする。
それは特定の誰かの顔として認識しているのではなくて、そこにある興味を引きつけられるものとして知覚していると言った方がいい。
目の大きさや色、鼻の形、唇の曲線、肌の色や質感などを、じっくりと自分の感覚に焼き付けるように見てしまう。
そのうち、見ていた横顔が視線に気づいてこちらを見返し、視線がぶつかってドキリとする。
お互いの意識がその一瞬で照準を合わせたように感じる。
「目が合う」ということは、意識が自分と相手の関係性に集中している状態で、非常に繊細な感覚の機微までこちらの身体に伝わってくる。そうやって誰かと接触した経験が、あるときふっと思い出されたりして無意識的に自分の行動に影響を与えるなんてことは、誰にでもあることなんじゃないかと思う。
赤ちゃんは自己を認識する前に、母親に自分の姿を映しているという。
赤ちゃんに限らず、いつでも他人という存在は意識と無意識、現実と超現実の世界の橋渡しをしてくれるようなものだと感じている。
そして誰かと接触することで、自分が自分でなくなっていくような妄想をする。
今回の作品は「劇場」という非日常の世界を体験する場所で、日常とシュールレアルな世界が交錯しながら、その妄想に現実を絡ませて、発展させて、不確かなものの確かな感触を摑みとりたい。そうして、パフォーマーそれぞれの身体に、そして「劇場」に様々な人間の姿を、そこで確かに起こる出来事として映していきたいと考えている。
構成・演出・舞台美術|桑折現
京都を拠点に活動しているパフォーミング・アーツ・カンパニー。
2001年、桑折 現を中心に結成され、身体、映像、テキスト、舞台美術、音、光などの舞台芸術に含まれる様々な要素を重層的に駆使し、独自の空間構成を構築するところから作品を制作している。
AI・HALLとの共同製作をはじめ、劇場公演の他、岡山県・犬島の銅精錬所跡地での野外公演、ホテルの一室やビルの外壁を使った屋外パフォーマンスなども積極的に発表している。
2009年、京都北山の“陶板名画の庭”に野外特設ステージを設置した『KISS』を上演。水とコンクリートが特徴である安藤忠雄建築の屋外美術館にて、巨大な滝を背景に個人と歴史の関係性をテーマした大規模な屋外パフォーマンスを行った。
根源的な人間の「存在」を見つめようとするこれまでの作品は、完成度の高い視覚性、そして壮大なスケール感と共に、トータルなパフォーミング・アーツの可能性を切り拓きつつあると評価される。